大船秋田屋で不思議な気分になったのだの巻
「あなたの座ってるその椅子ね、いつも寅さんが座ってた席なのよ」と女将が言うので仰天した。以前、地元のスナックでビールが好きな多分70歳超えの婆さんと知り合った。近所の魚屋で働く婆さんは秋田の横手出身だと言う。去年の暮れに店で隣り合ったとき、たまたま大船の話になって、「大船で呑むなら秋田屋へ行け。逗子の魚屋のババアから聞いたと言えば良くしてくれる」と店を紹介してくれた。
ぼくもときどき大船で呑むので、その店の場所は大体わかった。ゆうべ、仕事帰りに大船で電車を降り、気になっていた店で夕食がてらイッパイ呑んで返るとき、その場所の前を通ったので少し迷ったけれども思い切って寄ってみた。
雑居ビルの2階、いかにもな店構え
大船の盛り場の中でも古めかしい雑居ビルの中に秋田屋はある。魚屋の婆さんが教えてくれなければ踏み込むことはなかっただろうし、ましてやこの店の引き戸を開けることなど考えもしなかったはずだ。
まさに昭和の居酒屋然とした店はカウンターだけの作りで、80歳になるという女将は現役を退いたかカウンターの隅に陣取り、店の切り盛りは娘さんの担当のようだった。女将も秋田出身で、ここで店を始めてもう45年だか46年だか経つのだそうだ。魚屋の婆さんとは同郷同士で仲がいいとか。
早速女将は携帯電話で魚屋の婆さんに連絡をとり、ぼくも婆さんと話した。そのうち、途中で入店してきた客のために席をずらして譲り、ぼくは女将の隣に座ることになった。そうしたら女将が言うのだ。「そこは寅さんの席で、椅子は当時から交換していないので、まさにその椅子に寅さんが座っていた」と。
聞けば、まだ松竹の撮影所が大船にあった頃、フーテンの寅さんの撮影を進める渥美清さんや山田洋次監督が常連だったという。なんでも同じビルの上層に「パルコ」というキャバレーがあって、そこへ出かける前にこの店で勢いをつけていたらしい。
昨日は、都内にある編集部へ出向く前に、蒲田で「特撮のDNA-平成ガメラの衝撃と奇想の大映特撮」、続けて天王洲で「スター・ウォーズ アイデンティティーズ:ザ・エキシビション」と、特撮映画の展覧会をハシゴしたばかりで、夜に「フーテンの寅さん」の話になって、なんだか「映画の日」になったなあと不思議な気分がした。
店にはカラオケが設置されており、隣の客-これもまた婆さんだったのだけれど-が聞いたこともないような歌を熱唱し始めた。今は、居酒屋兼カラオケスナック的な業態となっている模様で、ウンチク系グルメ客には少々厳しい雰囲気だが、ぼくはこの手の店が嫌いではない。
正統派昭和の居酒屋にカラオケとミラーボールというシュールな光景
すでに一軒目の店で十分呑んでいたのだが、お正月だからと升酒が一杯サービスで差し出されたので後には引けなくなって少々呑みすぎた。さすがに満腹で名物というキリタンポは食べられなかったので次回の楽しみにとっておくことにした。
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